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「 有名建築から学ぶ間取りと暮らし」 バックナンバー

カサ(スペイン) アントニ・ガウディ【有名建築から学ぶ間取りと暮らし03】

2023.07.03

パセオ・デ・グラシア通りの集合住宅

20世紀初頭、すでに名声を得ていた建築家アントニ・ガウディは、同世代の建築家とは一線を画す独自のスタイルを確立していました。

そのころ、カタルーニャ州の名門出身のペレ・ミラとロゼ・セジモン夫妻は富裕層の間で人気を集めていた新市街のパセオ・デ・グラシア通り(バルセロナ)に1835平方メートルの土地を購入しまし、当時もっとも革新的な建築家だったガウディに設計を依頼しました。

こうして1906年、ガウディは自身最後となる民間建築プロジェクトに着手したのです。

カサ・ミラの建築工事期間を通じて、ガウディとミラ夫妻の間では争いが絶えませんでした。

ガウディは何度も予算をオーバーした上に、建設許可を受けた敷地の外に柱が出てしまったのです。こうして市役所との裁判に発展しましたが、バルセロナ市役所は1915年にガウディの主張を認める判決を下しました。

アントニ・ガウディ建築のカサ・ミラ。この通りでは他にも彼が手がけた建物が見られます。

アントニ・ガウディ建築のカサ・ミラ。この通りでは他にも彼が手がけた建物が見られます。

パセオ・デ・グラシア通り。バルセロナの主要大通りの一つで、ファンションブランド店や高級ホテルが建ち並びます。

パセオ・デ・グラシア通り。バルセロナの主要大通りの一つで、ファンションブランド店や高級ホテルが建ち並びます。

革新性と合理性

カサ・ミラの通称である「ラ・ペドレラ」はカタルーニャ語で「採石場」という意味です。ガウディはこの作品を通じて最新技術と大胆なデザイン、生物のような曲線を巧みに使い、最も論争を呼ぶオブジェのような住宅を創り上げました。

3つのファサードに水平方向にうねる海の波のような動きを与え、建物全体に躍動感を表現しています。目にする人々の想像力を刺激するこのフォルムは、聖地モンセラットの山からインスピレーションを受けたという説があります。

中でもプロベンサ通りに面するファサードは、建物の中でも最も日当たりの良い場所にあり、ほかのファザードよりも張り出すように設計されています。

プロペンサ通りに面するファザード。

プロペンサ通りに面するファザード。

エントランス

ガウディは通りとエントランスをまるで水の流れのように自然に結び付けました。2カ所に置かれたエントランスはガラスと鉄の扉を持ち、館内から外の様子が見えるようになっています。

各住宅へとつながるエントランスホールからは、広々としたパティオに出ることもできます。この2つの広大なパティオは住宅に優れた採光性と通気性をもたらしました。

こちらはプロペンサ通りに面したエントランス。

こちらはプロペンサ通りに面したエントランス。

こちらはグラシア通りのエントランスから入ってすぐのパティオ。階段を上ると2階に。

こちらはグラシア通りのエントランスから入ってすぐのパティオ。階段を上ると2階に。

各フロアに光が入る大きな吹抜けのパティオ

カサ・ミラの設計について優れた点の一つとして、館内のあらゆる空間で明るさが追及されていることが挙げられます。

ガウディはこの集合住宅の中心に2つのパティオを配し、空から降り注ぐ光を妨げないように天窓を設けませんでした。

また、各住宅のサロンや主寝室は、数多くの窓が設けられた正面ファサード側に面しています。

グラシア通りに面したパティオ。

グラシア通りに面したパティオ。

プロベンサ通りに面したパティオ。

プロベンサ通りに面したパティオ。

居住エリア

施主であるミラ夫妻の新居は、カサ・ミラの主階(玄関からの階段と直接つながった2階部分)すべてであり、床面積は1323平方メートル、部屋数は約35室という非常に大きなものでした。

グラシア通りのエントランスからアクセスすると、まず玄関ホールがあり、続いて書斎、ダイニング、夫婦の寝室、2つの部屋があり、そこからパティオにかけて使用人のスペースやキッチン、バスルーム等が配置されました。

建物全体は地下1階から6階まであり、3階から上階は賃貸住宅でした。並外れて大きな建築物であるカサ・ミラの賃貸住宅は290から600平方メートルもの床面積がありました。

賃貸の住民も庶民ではありません。カサ・ミラには王族や子爵夫人、外交官、弁護士、公証人、医師、繊維産業や自動車産業の実業家たち、政治家、スパイ、占い師、軍人といった人々が住まいました。

社交生活のためにも広いスペースがとられ、サロンや遊戯室は正面ファサード側に配置され、贅沢な雰囲気がさらに強調されていました。

廊下も豪華な装飾が施されています。

廊下も豪華な装飾が施されています。

屋根裏と屋上

ガウディはカサ・ミラの最上階に造形美と機能性を併せ持つユニークな空間を生み出しました。カテナリーアーチからなる800平方メートルの空間はまるでクジラの背のような有機的な雰囲気を持ち、「第二の屋根」として住宅を夏の暑さや冬の寒さから保護しました。

こうした断熱空間は壁と梁で構成されていましたが、ガウディは270本の放射線状のアーチによって屋根裏を構成しました。

こうして、まるで巨大な生き物の体内に入り込んだかのような一種独特の空間が生まれたのです。

偉大な建築家にこれまで顧みられなかった屋上を芸術的スペースにすることで、建物全体の価値をも高めたのです。

この屋根裏には共有スペースや物置き、洗濯場がおかれ、また防音性に優れていることからリフト機器もここに置かれました。

屋上もまた、人々のイマジネーションを掻き立てる不思議な空間になりました。当時、屋上は設計的に重要ではない存在と考えられていましたが、ガウディは想像力を駆使して屋上を芸術作品にまで高めました。

非常に高低差の多いこのスペースでは、階段の出入り口や換気塔、煙突が彫刻のようなエレメントに変貌しています。

最上階のカテナリーアーチ。

最上階のカテナリーアーチ。

屋上にもガウディらしいオブジェで見学の際は、必見の場所です。この屋上からは未だに未完成のサクラダ・ファミリアが見えます。

屋上にもガウディらしいオブジェで見学の際は、必見の場所です。この屋上からは未だに未完成のサクラダ・ファミリアが見えます。

換気棟や煙突もガウディらしい芸術品として鑑賞されています。

換気棟や煙突もガウディらしい芸術品として鑑賞されています。

屋上の模型。

屋上の模型。

【文・写真】井上三菜子さん
大阪府豊中市出身、バルセロナ在住のスペイン語通訳・翻訳者。カサ・ミラやベジェスグアルド邸、ピカソ美術館、ソフィア王妃美術館等の日本語オーディオガイド翻訳を手掛ける。スペイン以外に暮らした国はスイス(チューリッヒ)とメキシコ(モンテレイ)。
「ロコタビ」で観光客や出張者の旅のお手伝いもしています。スペインで大好きなスポットはCosta Brava(コスタ・ブラバ)エリアの海岸。

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