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「 有名建築から学ぶ間取りと暮らし」 バックナンバー

日本橋の家【有名建築から学ぶ間取りと暮らし01】

2022.08.24

自宅の新築、リフォーム計画の第一歩に、有名建築に触れて夢を広げるのはいかがでしょうか。この連載では、見るだけで刺激になり、学べることの多い著名な建築物を実際に訪ね、建物のデザインや内部の設え、そこで過ごす人のためを思って考えられた間取り等、その空間が創り出す魅力を探っていきます。

「日本橋の家」 設計:安藤忠雄

第1回目は、間口2.9メートル・奥行き約15m、コンクリート打ちっ放しの4階建て、安藤忠雄設計の「日本橋の家」です。安藤氏が設計した有名な「住吉の長屋」が間口2間(約3.6メートル)。さらに狭い間口の家が、大阪ミナミの繁華街に建っています。

竣工は1994年。施主の金森秀治郎さんは、ご実家が営む商売の倉庫として使っていた建物を、美術品店舗兼、家族4人で暮らすための住宅に建て替えるため、安藤忠雄建築研究所に飛び込みで設計を依頼されました。

安藤氏が手がけていた、同じく94年竣工の建物はサントリーミュージアム。当時、博物館や美術館のプロジェクトをいくつもかかえる中、この家の設計依頼を引き受けてもらえたそうです。

「このような、厳しい条件の敷地にファイトを燃やされたのではないかと思います」と金森さん。飛び込みの依頼から、数日後には設計がスタート。わずか1年半で、日本橋の家が完成しました。

建築当初から安藤氏に伝えていた「この建物をいつか一般公開したい」という希望通り、一家が18年間暮らした後、改修工事を行い、ギャラリー「日本橋の家」として運営。

現在は、建築家を志す学生や海外から日本の建築を見に来た人たちに向けて見学会を行なったり、展示会や学びの場として提供したりといった活動を行なわれています。

「日本橋の家」外観。間口2.9m × 15mの4階建て住宅です。

「日本橋の家」外観。間口2.9m × 15mの4階建て住宅です。

間取り図(A):将来一般公開するときは、1階の店舗部分の奥を吹き抜けにできるようにと、2階の天井はコンクリートではなく、鉄骨とデッキプレートでつくられていました。6年前にギャラリーとしてオープンするときに、吹き抜け工事が行なわれました。

間取り図(A):将来一般公開するときは、1階の店舗部分の奥を吹き抜けにできるようにと、2階の天井はコンクリートではなく、鉄骨とデッキプレートでつくられていました。6年前にギャラリーとしてオープンするときに、吹き抜け工事が行なわれました。

光溢れるリビングと階段

2階から上階が居住スペースになっています。

間取り図を見ると内部構造が少し複雑です。店舗の入り口横の階段からは、2階の居室部分の玄関(B)へ、さらにまっすぐ上がると3階の中庭(E)に到着します。

道路から見える建物正面の磨りガラスの窓。ここからの光が2階のリビング(C)、そこから繋がる居室スペースを通る内階段と3階の書斎(D)まで差し込みます。時間の経過とともに表情を変える光と風が味わえるこのリビングから書斎までの立体的な空間すべてが、金森家のリビング。

大きなソファを置くスペースはありませんが、階段部分には壁面に本棚を追加し、どこでも腰を掛けて本が読める「読書コーナー」となっていました。

間取り図(C)道路に面した天井まで広がる吹き抜け大窓。4階の渡り廊下から窓の開閉ができます。
この階段から3階の書斎へ。さらに書斎を通り抜けると中庭に着きます。

間取り図(C)道路に面した天井まで広がる吹き抜け大窓。4階の渡り廊下から窓の開閉ができます。
この階段から3階の書斎へ。さらに書斎を通り抜けると中庭に着きます。

2階のリビングから書斎に上がる階段の壁面に本棚が置かれていました。階段を活用した明るい読書コーナ。

2階のリビングから書斎に上がる階段の壁面に本棚が置かれていました。階段を活用した明るい読書コーナ。

(間取り図:D)「書斎は一番お気に入りの場所。道路側の窓と奥の中庭に続く扉、さらに正面の磨りガラスから入ってくる光を見るのが楽しみだった」と金森さん。

(間取り図:D)「書斎は一番お気に入りの場所。道路側の窓と奥の中庭に続く扉、さらに正面の磨りガラスから入ってくる光を見るのが楽しみだった」と金森さん。

階段の横に立って、階段の踊り場をデスク代わりに使用をしたり、腰掛けてくつろいだり。家具のように活用されてきた階段。

階段の横に立って、階段の踊り場をデスク代わりに使用をしたり、腰掛けてくつろいだり。家具のように活用されてきた階段。

直線で描かれた美しい階段に光と影が映ります。ギャラリーとして利用している現在は、本棚は撤去されています。

直線で描かれた美しい階段に光と影が映ります。ギャラリーとして利用している現在は、本棚は撤去されています。

家族の中心に中庭がある

書斎からも外階段からも直接アクセスできる中庭は、金森家にとって中心的な存在。中庭に面したご夫婦の寝室(F)があり、2つの階段はそれぞれ、息子さん(G)・娘さん(H)の個室に繋がっています。

また、はすかい同士階段の手すりに紐を通して、洗濯物を干したり、夏には子どもたちのためにプールを置いたり、生活・家事の面でもなくてはならないスペースだったそうです。

3階の中庭を4階の息子さんの個室の入り口から見たところ。右側の階段下は、トイレになっています。

3階の中庭を4階の息子さんの個室の入り口から見たところ。右側の階段下は、トイレになっています。

中庭から道路を見下ろしたところ。道路から階段を一直線に上れば、中庭にアクセスできます。

中庭から道路を見下ろしたところ。道路から階段を一直線に上れば、中庭にアクセスできます。

中庭から見た空。洗濯物干し場にぴったりの日当たりと風通し。正面の部屋は娘さんの個室。

中庭から見た空。洗濯物干し場にぴったりの日当たりと風通し。正面の部屋は娘さんの個室。

安藤設計と暮らしのアイデア

「日本橋の家」を拝見して感じたのは、安藤氏の暮らしに寄り添った住宅設計です。階段下の空いたスペースは、トイレや収納に活用されています。これは、できる限りスペースを有効活用し、収納スペースを増やそうと安藤氏から提案されたもの。

また、施主の金森さんの希望で、可動式のガラス屋根が設置されていて、壁に垂れているロープを引くと屋根がスライドし、雨の日でも洗濯物を干すことが可能になっています。

雨が中庭に入らないように、手動式の屋根を設置。

雨が中庭に入らないように、手動式の屋根を設置。

そのほかにも、植物が好きという要望に応えて、中庭のコンクリート壁にはアイビーを育てるためのプランターがつくられ、暮らしていた当時はそこに植物を植え込み、緑のカーテンを育てていました。

「光の教会」や「兵庫県立美術館」に代表されるように、コンクリート打ちっ放しの先鋭的なデザインの建物をつくる、という印象の強い安藤氏が、生活に役立つ工夫を盛り込んだ設計をされたということに驚きました。

こちらが、植物好きの金森さんのために作製されたプランター。

こちらが、植物好きの金森さんのために作製されたプランター。

中庭から階下のキッチンに光りが入るように、天井の一部をガラスブロックにすることが安藤氏から提案されました。この採光窓の効果は大きかったそうです。

中庭から階下のキッチンに光りが入るように、天井の一部をガラスブロックにすることが安藤氏から提案されました。この採光窓の効果は大きかったそうです。

建築への想い

金森さんは「日本橋の家」から引っ越した今でも、この場所に毎日のように通われています。

吹き抜けの大空間があると思えば、こじんまりとした居室があるといった変化のリズムが豊かで、バラエティに富んだ住空間のあるこの家は、何度訪れても飽きることはないと話していたのが印象的でした。

入り口には、住宅を公開してから5周年を迎えた記念として2021年に安藤氏から贈られた青リンゴのオブジェと、オブジェに添えられた“青春とは人生のある期間を言うのではなく、 心のもち方を言う”と綴られたサミュエル・ウルマンの「青春」の詩。

青リンゴが迎えてくれる街中に建つ狭小住宅の内部は、外から見た間口のサイズからは想像できない、明るく開放的な空間で、部屋と部屋を結ぶいくつもの回遊・上下動線を、入り口から4階までワクワクしなが歩き進めました。

安藤氏の設計するいくつかの建物に飾られる青リンゴのオブジェが日本橋の家の入り口に飾られています。

安藤氏の設計するいくつかの建物に飾られる青リンゴのオブジェが日本橋の家の入り口に飾られています。

リビングの吹き抜けに設置されているのは、完成時に安藤氏から記念として贈られたオブジェ。

リビングの吹き抜けに設置されているのは、完成時に安藤氏から記念として贈られたオブジェ。

こちらの『日本橋の家』は、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」で一般公開される予定です(2022年10月29~30日)。公式ホームページ:https://ikenchiku.jp/

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