毎週水曜日更新

floor-plan_500.65

SEARCH

イエマガは「世界にひとつの自分らしい家」づくりを応援するWEBマガジンです。

floor-plan_500.65

「 有名建築から学ぶ間取りと暮らし」 バックナンバー

 旧伊庭家住宅 ヴォーリズ建築【有名建築から学ぶ間取りと暮らし02】

2022.11.09

自宅の新築、リフォーム計画の第一歩に、有名建築に触れて夢を広げるのはいかがでしょうか。この連載では、見るだけで刺激になり、学べることの多い著名な建築物を実際に訪ね、建物のデザインや内部の設え、そこで過ごす人のためを思って考えられた間取り等、その空間が創り出す魅力を探っていきます。

築100年のヴォーリズ名建築

第2回目は、1913年にアメリカ出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏が設計した「旧伊庭家住宅」を訪ねました。

この住宅に暮らしていたのは、画家の伊庭慎吉夫妻。父である住友家第二代総理事を務めた伊庭貞剛氏がヴォーリズ氏に建築を依頼しました。

学校校舎をはじめ住宅まで、多数の建築を手がけたヴォーリズの初期の作品。1931年に一部改造されていますが、外観・内部ともに夫妻が暮らしていた当時のまま現存している貴重な建物です。

英国様式の外観に、急勾配の大きなスレート屋根の家は、大正時代、自然に囲まれたこの村でとても目立つ存在だったそうです。現在でも町の中で目を引く外観。常時公開がスタートしたときには(2013年)、10日間で2000人近くの見学者が訪れたそうです。

※旧伊庭家住宅は、滋賀県近江八幡市の指定文化財に指定されています。

ハーフティンバーという木造様式の外観。一部の柱と梁のティンバー(木材)が外から見えるようにつくられています。

ハーフティンバーという木造様式の外観。一部の柱と梁のティンバー(木材)が外から見えるようにつくられています。

夫妻の肖像画。伊庭家四男の慎吉氏は、フランスに留学し、絵画を学び帰国。後に高校の美術教師や神職、安土村村長等を務める等、多岐にわたって活躍された人物です。

夫妻の肖像画。伊庭家四男の慎吉氏は、フランスに留学し、絵画を学び帰国。後に高校の美術教師や神職、安土村村長等を務める等、多岐にわたって活躍された人物です。

芸術家が集うサロン

伊庭慎吉氏は、この住まいにアトリエを構え、さまざまな文化人との交流も行なっていました。その象徴と言える部屋がリビング・ダイニング。慎吉氏の姪御さんによると、大人たちしか入れない部屋で、子どものころ中に入れてもらえなかったそうです。

完成当初は、玄関は(A)の位置にありました。玄関ホールにある扉からリビング・ダイニング(B・C)に入ります。

扉を開けると、大きな八角形のダイニングテーブルのある洋風スタイルの内装。このテーブルを客人と囲んで、サロンとして使われていたことが想像できます。

奥にあるリビングはダイニングより小さく、暖炉のコーナーと壁沿いに腰を掛けるスペースがありました(公開されているヴォーリズ作成の初期の図面参考)。

直線と曲線で美しいラインを描く元の玄関ホールにある階段。階段の向こうに見える扉がリビング・ダイニングの出入り口です。

直線と曲線で美しいラインを描く元の玄関ホールにある階段。階段の向こうに見える扉がリビング・ダイニングの出入り口です。

初期の図面を見ると、ダイニングにつながったキッチンとパントリーがありますが、現在は和室にリフォームされています。この時代にこのように広いパントリーのある家は非常に珍しかったと思います。

初期の図面を見ると、ダイニングにつながったキッチンとパントリーがありますが、現在は和室にリフォームされています。この時代にこのように広いパントリーのある家は非常に珍しかったと思います。

リビング・暖炉コーナー。奥まった落ち着く場所。2つの窓は廊下に繋がっています。

リビング・暖炉コーナー。奥まった落ち着く場所。2つの窓は廊下に繋がっています。

廊下からリビング・ダイニングを見たところ。対面の扉を開けるととても風通しのいいスペースです。

廊下からリビング・ダイニングを見たところ。対面の扉を開けるととても風通しのいいスペースです。

美しく繊細な装飾

派手な装飾や色遣いのない洋室は、現しになっている柱や梁、窓枠がインテリアの主役になっています。柱と梁を良く見ると…斜線の飾り彫りが入っています。窓枠の形も、日本家屋の格子模様にも似た繊細なデザイン。

これらの美しいしつらえで、ナチュラルな雰囲気になりがちな木材を多用した部屋が、上品で和風建築とも調和するデザインに仕上がっています。

梁に入った斜め線の模様。シャンデリアの光で手の込んだ彫り模様が浮かび上がります。

梁に入った斜め線の模様。シャンデリアの光で手の込んだ彫り模様が浮かび上がります。

増築されたサンルーム

ダイニングルームと庭の間には、サンルームが増設されました。両開きの扉を開けると、半屋外のような気持ちの良い空間が広がります。

拝見した室内の中で、ダイニングから見るサンルームの開放感は格別です。光と風に癒やされて、時間を忘れるほどでした。

ダイニングの扉を開けたところ。

ダイニングの扉を開けたところ。

サンルームを外から見たところ。この部分だけ石造りになっています。

サンルームを外から見たところ。この部分だけ石造りになっています。

見晴らしの良いアトリエ

次に玄関ホールに戻り、階段を上がって慎吉氏のアトリエを見せていただきました。こちらも大きな窓と暖炉のある広々とした洋室です。

洋室ですが、扉だけは和風の引き戸になっています。これは、お寺から譲り受けたと言われている見事な杉の一枚戸。大きい絵画の出し入れには、これぐらいの間口が必要だったそうです。貴重な美術品を建材に取り入れるこだわりと、和洋折衷住宅だからこそできるユニークさに触れました。

どこかのお寺から譲り受けたと言われている大きな引き戸。ヴォーリズのインテリアに合った気品のある扉です。

どこかのお寺から譲り受けたと言われている大きな引き戸。ヴォーリズのインテリアに合った気品のある扉です。

ジャパニーズ・スタイルも大切に

玄関ホールからダイニングと向かい合わせの引き戸を開けるとそこは、純和風の部屋が続きます。

建築当初のヴォーリズの図面に「ジャパニーズゲストルーム」と「ジャパニーズルーム」と書かれていた2室は、昭和初期の改造を経て、現在の広縁のある間取りと美しい装飾に仕上げられました。

2つの和室を仕切る4枚襖には、日本画家・高倉観崖の絵が描かれています。玄関と繋がった部屋がゲストルーム側は「秋の図」。裏側には「春の図」が描かれています。浮かび上がる月の美しいふすま絵を愛でることができるお部屋です。

また、ゲストルームには縁側(築後増設)があり、ここからゆっくり庭を眺めることができます。

こちらはゲストルーム側の襖に描かれた「秋の図」。

こちらはゲストルーム側の襖に描かれた「秋の図」。

こちらがゲストルームの庭側の襖を開けたところ。縁側から庭が眺められます。

こちらがゲストルームの庭側の襖を開けたところ。縁側から庭が眺められます。

こちらは階段下です。空いたスペースを有効活用。暮らす人への細やかな気づかいが感じられます。

こちらは階段下です。空いたスペースを有効活用。暮らす人への細やかな気づかいが感じられます。

外観は、洋風住宅ですが、この室内には非常に細かい桟でつくられた「筬欄間」をはじめ、伝統的な細工等、難しい建築技法が必要とする建具に取り入れられており、本格的な和室に仕上がっています。

上が「筬欄間」。いろんなデザインの欄間が楽しめる和室です。

上が「筬欄間」。いろんなデザインの欄間が楽しめる和室です。

廊下も「網代天井」という手の凝った細工が施されています。この立体的な素材と陰影は、長い廊下歩きながら見飽きることがありません。

廊下も「網代天井」という手の凝った細工が施されています。この立体的な素材と陰影は、長い廊下歩きながら見飽きることがありません。

「旧伊庭家住宅」は、西洋建築と日本を愛したヴォーリズならではの和風建築、どちらも味わえる贅沢な住宅です。

また、北・南両面が大きく外に開いた設計で、家中どこも外の空気と季節を感じる、とても居心地の良い空間でした。

ここで絵を描いたり、友人たちと語り合ったりして過ごした伊庭氏も、たくさんの客人たちも安らぐ家だったと思います。その様子をイメージしながら、趣向を凝らした室内すべてを探索させていただきました。

「旧伊庭家住宅」開館日
木曜、金曜、土曜、日曜、祝日(10時~16時)
※1~2月は、土・日・祝日のみ開館。
https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/9766/

TAG

記事に登録されたタグ

読者アンケート

この記事の感想

※コメントはイエマガ内で掲載させていただく場合がございます。

性別

年齢

ニックネーム

有名建築から学ぶ間取りと暮らし一覧に戻る

連載記事

連載一覧を見る

PAGE TOP