2023.09.25
文・写真 島綾子
416アーキテクツ
調査した部屋 ⑤間口3800のホテル(フランス・マルセイユのユニテ)
マルセイユのユニテの一部はホテルとなっており、誰でも泊まることができる。私は2種類の部屋に1泊ずつ泊まることにした。
1泊目は、住戸部分の基本モデュロール寸法と同じ間口3800の部屋で過ごしたが、さすがホテル。コルビュジエデザインの椅子LC4が窓際においてあり、コルビュジエの空間を存分に味わえる。ただ、こうもきれいに改修されてしまうと、ユニテの荒削りな感じは消されてしまっているように思った。
調査した部屋 ⑥間口1900のホテル
前述の部屋に対して、もう少し宿泊費の安い小さな部屋(間口1900)にも滞在した。こちらのほうが改修の範囲が狭くオリジナルのユニテの雰囲気が残っていた。
コルビュジエはこのサイズのユニットを子ども部屋にと考えて計画していたというが、滞在してみるとやはり狭い。
フランス・フェルミニのユニテ
フランスのロワール地方に位置するフェルミニのユニテダビタシオン。その歴史は他に比べて特殊だ。炭鉱の閉鎖で町が荒廃し、建物の北側半分が約20年閉鎖されていた。
再度住宅として供給されることとなった際に一斉に改修し、多くの部屋がコンクリートでできた界壁(各住戸を区切る壁)を撤去した。改めて入居者を募集したことで、若い人がたくさん入ってきた。現在は改修された北側の方が人気らしい。
外壁の配色もフェルミニならでは。西側は白と赤のみ、東側は白と赤に紺色の壁が少しプラスされただけの、シンプルなカラーリングだ。たくさんの色を使っているマルセイユやベルリン(私は訪れていないがルゼやブリエも含む)に比べ、いくらか落ち着いた印象だ。
細かい話だが、ファサードの壁の納まりや厚み、手すりの形状もユニテによって違う。担当者のおさめ方の違いか、コルビュジエのその土地に合わせたデザインなのか。たくましい印象のベルリンに対し、フェルミニは繊細な印象だ。
調査させてもらった部屋 ⑦コルビュジエは「光のマジシャン」
1985年から住んでいるというYvan。ユニテダビタシオンネットワークのオーガナイザーをしているだけあって、ユニテの歴史などいろいろと詳しい。建物の改修時には、エントランスホールの色はYvanが紺色に決めたそうだ。コルビュジエのことを「光のマジシャンだ」という。
サッシはマルセイユと同じで木製。そのおかげで温かみのある空間になっている。ベルリンにはないブリーズソレイユはやはり日よけに有効。程よく直射日光が遮られている。
キッチンとダイニングスペースを隔てる家具はオリジナルに近いもので作り直している。緩やかに空間を分けるだけでなく、食器をどちらの空間からも簡単に取り出すことができる。
「住宅は住むための機械である」
これまで4回に分けて文章を書かせていただいたが、私が見た3つのユニテは住民が主体になり、ルールを設け、さらには住民交流や他のユニテとの活動を行うことで、建物への誇りと愛着を維持している。
また、コルビュジエの有名な言葉「住宅は住むための機械である」。住宅を工業化・規格化することで住み手を選ばなくなっただけでなく、改修をしやすくし、住み継ぎやすくなった。
今ベルリンのユニテでは大掛かりな外壁改修が行われている。竣工後60年もの間、時間をかけて退色していった外壁は、今また竣工当時のように明るい色合いに戻り、いっそう青空とのコントラストが美しく映えているのだろう。次に訪れる時を楽しみにしている。