2023.09.20
文・写真 島綾子
416アーキテクツ
フランス・マルセイユのユニテ
全5棟のうち、1棟目に竣工したユニテダビタシオンはマルセイユにある。コルビュジエの理想とする集合住宅のかたちが最も色濃く実現した建物である。
各住戸はモデュロール寸法により天井高2260mm、間口3800mmが基本となる。それらは全体的にベルリンよりもひとまわり小さい(第1回参照)。
しかし、狭さを感じさせない仕掛けがたくさんある。低い天井から続く吹抜は空間にメリハリを与えてくれる。ブリーズソレイユは、吹抜空間に入る日差しを調節してくれる(夏は陽が高いため庇のように働き、冬は高度の低い日光がそれに遮られることなく部屋に入ってくる)。
ベルリンに比べて、そんな建築的な構成の違いもあるが、私はこのユニテを魅力的にしているのは天井いっぱいの木製建具だと思う。天井の低い空間の先に広がる吹抜空間。そこにある高さ2層分の窓から見える外の景色は空間の広がりを増す。また木製であることにより、部屋全体をあたたかみのあるものにしている。
詳細は後述するが、階段やキッチンにも木を多用し、角を落としたデザインになっている。それらにより、部屋の内部は外観の荒々しさからは少し違った趣きがある。
共用部も街のようなにぎわいがある。小さな店舗、ホテルやその受付を兼ねるレストラン、保育園、プールなども実現している。
調査させてもらった部屋 ③オリジナルに近いデザイン
元英語教授のGisele(ジゼル)は、一度マルセイユのユニテを離れたが、1970年から再び住み始めた。
白を基調とした部屋は落ち着いた雰囲気で、ブラケットライトやフロアランプの光がさらに上品な空間をつくっている。
彼女は可能な限りオリジナルを残し、改修する場合も元の雰囲気を残すよう努めた。
キッチンはCharlotte Perriand(シャルロット・ペリアン。フランスのデザイナー)のデザインを継承して造り替え。階段は片方の手すりのみ撤去。床の仕上げや窓まわりはオリジナルのままになっている。
夫が亡くなってからは一人暮らしで、たまに友人が泊まりに来るため、2階の奥の間口が半分に分割された部屋にはゲストルームとしてソファベットが置かれている。
調査させてもらった部屋 ④子ども部屋
もともと狭い間口にもかかわらず、さらにその間口を半分に仕切った部屋を持つ住戸タイプがいくつかある。これはコルビュジエが子どもたちにも個室を、との思いから実現させたものだ。間仕切壁でなく大きな建具になっていて、互いに行き来も可能。
設計の仕事をする者として、こんなに細長い部屋を提案するには確信が必要だが、ここは手前に学習机、奥にベッドが置けて、理にかなっている。子供たちが自分の好きなように部屋を飾る様子が目に浮かぶ。
また、オリジナルのシャワーブースは船をイメージしただけあって、壁に有機的な開口が設けられている。