ここでは風通しを中心に考えてみたいと思います。
「家相・風水」をはじめ、土地の方位が法律や税金に与える影響などについても検討してみましょう。
すでに土地を購入している方は、図面を見ながら、建物を設計する際に役立ててください。
昔の日本建築は、柱・梁の骨組みと大きな開口部で構成された開放性の高い住まいがスタンダードでした。夏は風通しよく、冬は日差しを取り入れる家づくりが、比較的近年まで続けられてきました。
ところが、第二次大戦後の経済成長、技術革新、欧米文化の流入などにより、日本の生活は一変。住宅に関しては、熱や空気の出入りの少ない優れた気密性・断熱性が求められるようになりました。
一方、採光に関しては窓の大型化やブラインド、シェード、カーテンなどの遮光技術の向上により、適度にコントロールしながら積極的に取り入れるようになりました。
しかし、高気密住宅では通気性が悪いため、建材から発生する化学物資によるシックハウス症候群が問題になったのです。
そこで導入されたのが24時間換気装置。室内の汚れた空気と新鮮な外気を強制的に入れ替える機械です。
そして、2003年7月に施行された改正建築基準法では、新築住宅のすべての居室に機械換気設備の設置が義務化されました。
いまや、高気密・高断熱・24時間換気は、日本の住宅に欠かせないものといえるでしょう。
24時間換気.COM
24時間換気システムの設置規定など、24時間換気設備に関するわかりやすい解説がされています。
住まいづくりの相談室/24時間換気システムの特徴
換気方式による性能比較なども行われています。
先の「日本の家づくりの変遷」を見る限り、家づくりに際しては採光が重要であり、通風はもっぱら機械換気で行うことになります。
しかし、そのような暮らしに疑問を感じる方も少なくないはず。では、風通しをよくするにはどのような方位の土地が適しているのでしょうか。
- 統計から知る風の向き
通風のよい方位はどちら?
実はこの答えは難しく、一般論からすれば冬は北寄りの風、夏は南寄りの風が吹く確率の高い日本では、南北に風が抜けるように窓を配置するのが望ましいと考えられます。なかでも、最も通風を必要とする夏の風向きが重要です。そこで、調べてみたいのが風向に関する統計資料。
第1回の「環境のよい土地とは」でも紹介した気象庁の「気象観測データ」で、まず調べたい<地点の選択>※を選びます。次に、<データの種類>から「年・月ごとの平年値を表示」を選ぶと一覧表が表示され、風向・風速はもちろん、降水量、気温、、日照時間、積雪量などもひと目でわかります。このようにしてこれから住む土地の夏場の風向を調べ、その方位に障害物がなく開けていたり、道路と接しているようであれば、通風のよい家づくりが期待できるのではないでしょうか。
※ 該当する地点がない場合には最寄りの地点で代用。
気象庁「気象観測データ/過去の気象データ検索」
過去の気象データが手に取るようにわかりとても便利。 - 風の流れと関連のある要素
風は気圧の差によって生じる自然現象ですが、その地域の地形や工作物などの影響を受けることがあります。
例えば、河川があると風は流れに沿って吹くことが多く、夏場は水面で冷やされ心地よい風になります。同様に、湖沼や海岸でも特有の風が吹きます。また、緑地などがあるとひんやりした風が吹いてくることもあり、これらは通風にとってプラス要素です。
一方、中高層ビル、大きな河川などの堤防、道路や鉄道などの土手といった工作物は、風の流れを遮る働きをします。また、都市部によく見られる小規模住宅が密集した地域も風の流れが悪く、これらは通風にとってマイナス要素です。このほか、風が吹くことでかえってマイナスとなるものもあります。超高層ビルでは突風のようなビル風が吹き、洗濯物などが飛ばされる恐れがあり、学校や公園のグランドは風と共に砂埃をもたらします。工場や下水処理場、養鶏・養豚場などは悪臭が心配です。
このように、プラスになる風とマイナスになる風があるので、そのあたりの位置関係(方位)も踏まえた上で土地を探しましょう。 - 風通しのよい建物の方位
図1(a)のように部屋が東西方向に配置されており、窓が南北に設けられていると、最も通風を必要とする夏場の風通しがよくなります。
一方、図1(b)のように部屋が南北に配置されている場合には、南北だけに窓を設けると風の出入りが極めて悪く、東西に窓を設けて、少しでも通風をよくする必要があるでしょう。このような場合には、壁をなるべく設けないワンルームの間取りにしたり、暖かい風が上昇する性質を利用した図2のような棟換気を用いることで風通しがよくなります。
図1 窓の位置と風の流れ
図2 棟換気のしくみ - 敷地の方位と建物のおさまり
図3 通風に有利な敷地
図1(a)の建物の東西方向の長さを9mとすると、少なくとも敷地の東西方向の長さは10m必要。部屋を東西に配置するには、敷地が東西に十分長いか、少なくとも正方形でなければうまくおさまりません。また、一般には南入り(前面道路が南側にある)の土地が日当たりがよく人気ですが、夏場の通風を考慮すると必ずしもベストではないこともあります。
例えば、図3の3つの土地A〜Cはいずれも敷地面積は同じですが、各部屋の通風・採光を考慮すれば東入りのAのほうがB、Cに勝るかもしれません。実際には、現地ならではの風が吹きます。気象台の統計資料だけでなく、長年その地に住んでいる方々にヒアリングして、季節ごとの風向きを調べてはいかがでしょうか。
家相・風水はいずれも中国で生まれた学問で、簡単に述べるなら家相は建築学、風水は地理学のようなものです。いずれも、安全・健康・快適に暮らせる家づくりのために、先人たちが経験をもとにして編み出した知恵といえます。
そういう意味では、今回の「土地と方位の関わり」などは、風水とおおいに関連があります。なかには、信じがたい内容もありますが、「三角形の土地はよくない」「平坦な長方形の土地がよい」「地盤がしっかりした土地がよい」といったことも、実は風水に述べられているのです。
家相・風水に関しては、信じる人、信じない人それぞれですが、なかには科学的根拠のある内容もあり、すべてを否定するのではなく、アドバイスととらえ、納得のいくことは取り入れてみるというスタンスがよいのではないでしょうか。
土地の方位が法律や税金とどのように関係あるのか、ピンと来ない方もいらっしゃることでしょう。
法律に関しては、第5回「土地に関わる法規制」に登場した斜線制限。税金は第6回「土地の価格と特殊な条件」の公示価格が土地の方位と関わっているのです。
まず斜線制限ですが、北側で道路に接する北入りの土地では、北側に位置する建物が「道路斜線」と「北側斜線」によって制限を受けます。
一見、二つの制限を受けるため、より厳しく規制されそうに思われますが、道路が北側に位置する北入りの場合の「北側斜線制限」は、図4のように道路の向かい側を隣地境界と考え、そこから5mまたは10m立ち上げるため、単に隣地と接する場合より制限が緩くなるのです。
つまり、一般の北入りの住宅では「道路斜線制限」をクリアすれば、ほぼ「北側斜線制限」をクリアしたに等しいというわけ。
日当たりの面でデメリットのあった北入りの土地も、斜線制限に関してはメリットとなります。
図4 北入りの敷地の斜線制限
第1種・第2種低層住居専用地域では、前面道路の幅が6mある場合、軒高は道路斜線により最高7.5mまでの制限を受けます。しかし、北側斜線は道路の向かい側から5m立ち上がりとなるため、道路斜線制限のほうがはるかに厳しく、北側斜線制限は悠々クリアしていることがわかります。
一方、公示価格は南側に道路のある南入りの土地のほうが、その他の方位の土地より高くなるよう補正を加えることが検討されており、一部の自治体ではすでにそのような評価によって固定資産税が定められているとか。
南入りの土地は買うときだけでなく、住んでからも高くつくかもしれませんね。
今回の土地探しに関するチェックシートを用意しました。これまでの要件をもとにして書き込んでみましょう。