道田 聖子
スウェーデン人のパートナーと住まいとインテリアのデザイン会社「Aj! design(アイ!デザイン)」を経営する。毎年、夏にはスウェーデンのアネヒルのコテージで過ごす。著書に『自然のなかのやさしいデザインたち』『北欧のなつかしいモノ暮らし』(共にインターシフト発行)。
連載の最終回にあたり、忘れられない思い出と共に浮かんできたのはUlrica Hydman Vallien(ウルリカ.ヒードマン.ヴァーリン)という、女性アーティストのことです。
彼女は、スウェーデンを代表するデザイナーの一人です。大胆な絵柄のユニークなガラス製品が有名ですが、誰とも似ていないその表現は、陶器や絵画、ファッションなど、様々な枠を超えて(ウルリカが絵を描いた飛行機が空を飛んだことも!)高齢になっても意欲的に活動し続ける彼女は、その生き方自体も人々の心を掴んできました。
その作品は、一般的な北欧らしいクリーンなイメージ、とは違っています。どこか奇妙でユーモラス、同時に毒気と不気味さえ持ち合わせた、オリジナルの世界がそこには存在するのです。
今から15年ほど前、本の執筆のために、彼女の自宅でインタビューする機会がありました。
実際の彼女はー。まさに、作品そのもののような人でした。そして、招き入れられた家の中も、彼女の独特の世界観に溢れていました。リビングの壁には、家を建てる時に地面に埋れていたのを発見したという、猫のミイラを飾り、ダイニングテーブルには蛇の剥製…。少しびっくりしている私の様子を楽しんで笑う、ウルリカの揺れる赤いおかっぱの髪。
こんなスウェーデン人に出会ったのは初めてのことでした。どこまでも自由で枠がなくて、、強すぎるパッションを持て余すかのような人。つい目が離せなくなり、引き込まれてしまうその魅力。
彼女との会話の中で、一番印象的だったのは、この家の前の池で、自身の幼い息子さんが溺死した話でした。彼女はそれ以来、1年中朝になるとこの池で裸で泳いでいるというのです。もちろん真冬の暗闇の朝でさえ。私は彼女の真の哀しみと、生への憧れに気づき、心が震えるほどになって、もはや何も言葉を発することができなくなりました。
池や湖は、天から降り注ぐ大きな水の器。スウェーデンの人にとって、まるで空気のように当たり前にそこにある存在です。そこで裸で泳ぐことは、洗礼の儀式。それは、古い自分を脱ぎ捨てて、新しく生まれ変わることです。水がすべての咎を洗い流し、許し、受け止めてくれるのです。
ウルリカは、昨年3月21日、あと数日で80歳の誕生日という時に、眠るようにこの世を去りました。その訃報をニュースで知った時、私が真っ先に思ったことは「ようやく天国で息子さんと再会できたんだ!」ということ。そしてウルリカが私の心の中に残してくれたメッセージ、いつも魂の自由を感じて生きること、をいつまでも忘れないでいたいということでした。
今回でエッセイは最終回となります。自分でも思いがけぬ長い間、執筆させていただく機会を与えられて感謝しています。私の身の回りのスウェーデンの小さな拾い話にお付き合いくださった読者の皆さまにも、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
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