「和」をデザインする素材は、土、木、紙が代表的なものとして挙げられます。これらの古くから日本の家屋に使用されてきたものは、健康素材への関心の高まりとともに、再び注目されるようになってきました。
自然素材であることはもちろん、高温多湿の気候に強い素材、つまり、この気候の中でも立派に育って環境に適応し得る国産材を使用してきたことも着目すべき点です。
『徒然草』には、「家の作りやうは、夏をむねとすべし」という一節が書かれています。蒸し暑い夏をいかに快適に過ごせるか、既にこの頃より求められていました。そして、長い歴史の中で夏の多湿にも、その土地の害虫にも強い木材、湿度調整する土が選ばれてきたのです。
「地域生産地域消費」を大切にしようと言われる考え方は建築の分野でも、建材の持つ「環境と共生する力」を活かした、理にかなった考え方であり、できるだけ、その土地に根付いた建材を使うことをお勧めしています。
デザイン面から見ると、木材の「現し(あらわし)」(柱や梁等の構造部が外に見える)をどう見せるかが大切な部分になります。そのため木目の美しさ、大工職人の技術である表面、つなぎ目のなめらかさも重要な要素です。
たとえば、床の間がある、いわゆる「田の字型」の間取りの「武家屋敷(寝殿造り)」に比べ、関西、特に京都の「町家(数奇屋造り)」では細い柱や梁が使われ、繊細で優美さを感じ、大工の心意気と技術の高さが伝わってきます。
「和」のデザインの楽しみ方は、調度品や細部の美しさに見とれるものではなく、その空間を引いて見たときの「抽象画」(点と線や色が表現するものを追及する)を眺めるような感覚にあります。
枯山水のような和の庭園の見方も同じだと思うのですが、ひとつの点に目が行くというものではなく、柱の太さと建具の存在感、色合いとの調和=バランスを楽しむものです。
壁の質感、窓の障子、柱のほんの少しの太さの違い、鴨居、敷居の長さなどで印象は大きく変わるため、配置・仕上げを細かくバランスをとりながら使い分けています。
そのほかにも、壁に色を加える、左官で模様をつける、柄のある和紙を使う、木材に色がつく仕上げ材を塗る、竹で模様を描くなど伝統的な飾りをプラスすると、華やかなデザインが楽しめます。
「和」のデザインの建具といえば、…引き戸、障子や襖。空間を仕切るために用いられるこれらの建具の色、デザイン、質感、陰影などに意匠を凝らすことにより「和」というひとつのスタイルに幅が広がります。
たとえば、同じ引き戸でも、繊維業を営む家で見られた代表的な「糸屋格子」を用いれば、昔ながらの町家を表現でき、いぶし瓦敷きの玄関には瓦の色と風合いを引き立てるヒバの格子戸で格式高い趣を表現…など。
もともと日本家屋は大工がつくる家。ここに掲載している写真の建具も、すべてデザインから起こして職人がつくっています。それだけ重要な要素であり、せっかくの「現し」のよさを失ってしまう可能性があるからです。
さまざまな素材や柄をミックスさせて建てる西洋のスタイルと違い、「木造・現し」スタイルならではの、建具選びの難しさがありますが、これは次の設備、家具についても同じことが言えます。
このように、古くから続く「和」の家は、主役である杉、ヒバ、ヒノキ、桜…など木材が持つ質感を活かし、その場に合うものを一つ一つデザインし、あつらえるもの。住む人、設計士、職人がひとつになってつくりあげるスタイルだと思います。 |
最近では「和」のデザインでもほとんどの場合、畳全室というよりは、無垢材のフローリングを希望されます。そして床、梁、柱と使用する木材に囲まれる生活は、住む人から癒される、木の香りが楽しめると喜ばれる一番の魅力となっています。
ですが、ここに家具や設備を和の雰囲気を壊さずに設置するためには、工夫が必要です。できればここも大工のつくる「和」、もしくは「和」の要素を持った木目が美しい家具を設置することをお勧めします。この空間に合板やプラスチックなどの近代的、人工的な家具を置くと「木の存在感」に負けてしまうことも…。
システムキッチンの戸棚のパネルなど壁面に大きく見える部分を無垢材でつくるだけで、近代的な設備もぬくもりのある木造住宅に似合う和の家具へと変えることができます。
ほかにも、木材は仕上げ材によって色を変えてみたり、挿し色を加えて、遊び心をプラスすることによって、モダンな印象になりますので、設備を置くところだけ雰囲気を変えてインテリアを楽しまれるのはいかがでしょうか。