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21年前、旧友を尋ねてしばらくアメリカに滞在する機会がありました。滞在させてもらった人の家には暖炉があり、毎日、毎日、暖炉に火を入れるのが滞在期間の私の日課でした。そうしてぼーっと炎を見ていたら、今までの人生で感じたことのない、とても心地良い気分を体験しました。
「炎を見る」という行為は体だけでなく心まで温めてくれる。そして、今までの自分の人生が、頭の中でドラマのように巡る。暖炉を前にすると、ゆったりとした感覚と、正直な自分が見えてくる事を感じたのです。
その日から、暖炉についていろいろと調べていくうちにバーモント・キャスティングス社のカタログで薪ストーブに出会いました。薪ストーブは暖炉と違い、直接炎から暖をとるのではなく、器である鋳物から出てくる波長の長い遠赤外線が体を温めてくれます。
以前に仕事で知り合ったお客様から「究極の暖房」を作って欲しいと求められたことがあります。これこそが、頭のどこかでずっと答えを探していた「究極の暖房」ではないか……、忙しい日本人にとって必要なものは正にこの「薪ストーブ」ではないか!と直感で思ったのです。
それまでの仕事(工場のライン設計・設備)と平行して、薪ストーブの施工販売業を開始しました。20年前と言えば、日本では、まだ薪ストーブ専門の会社は3、4社で、認知度も低いものでした。その頃は京都から遠く長野まで工事をしに行ったものです。
薪ストーブ施工者には施工をする上で必要な免許はありませんが、施工者としての安全を考え危険物取り扱い免許を取得したり、各都道府県の安全基準を勉強したりしました。屋根から上はかなり冷えるため、中の煙が結露せずに煙突から出ていくように配慮しないと煙道火災につながることもありますので、煙突の設置にはとても神経を削ります。現在でも、メーカーの示す基準を上回る安全性を求めて、壁との安全な距離を研究しています。
世界中には多くの薪ストーブ愛好家たちがいます。
1970年代に発売され人気を博した鋳物製の「ディファイアント」という薪ストーブは、スミソニアン博物館に展示されるほど歴史的価値があるものです。
この薪ストーブの歴史は、1744年、ベンジャミン・フランクリン博士が暖炉の火をなんとか温度調整できないかを考え発明したもの(フランクリン・ストーブ)が始まりです。
日本に強い影響を与えたのは、1945年世界的オイルショックの時代に遡ります。一般家庭の暖房燃料としては薪・炭・練炭が主流でしたが、次第に学校などの施設で石炭ストーブに代わって石油ストーブが使われだし、1960年代半ば頃からは一般家庭にも石油ストーブが流通し始めました。低価格で安定した供給が可能な石油は大変便利なため、一般の家庭にも普及したのです。
ところが1973年から1974年にかけて、第四次中東戦争を引き金にオイルショックが生じて世界的に石油が高騰し、埋蔵量に限界のある化石燃料の使用に疑問の声が上がるようにもなりました。
このような時代を背景に、薪ストーブの需要を感じたバーモント・キャスティングス社によって「ディファイアント」は1975年、雪深いバーモント州の町外れにある古い鋳物工場で誕生しました。旧来からの優れた素材であり、耐久性もある鋳物製のこの薪ストーブは、気密性に優れ、一度の給薪で長時間連続燃焼しつづけるものでした。
この薪ストーブは大変流行しましたが、その後アメリカ政府による排煙規制がおこなわれ、このストーブは廃番となりました。現在ではアメリカの最も厳しい州の排気基準をクリアする新式の薪ストーブ「アンコール」が販売されています。
薪ストーブが室内を暖める仕組みは、炎で直接暖まる暖炉とはかなり違います。薪ストーブでは、木材の燃焼によって生じた木炭ガスを再度燃焼させ、熱を最大限に内部に閉じこめます。これによって発生する遠赤外線(波長の長い光)が、薪ストーブ本体表面の熱伝導を利用して四方八方に広がり、人・空気・物体にぶつかり発熱するのです。
この薪ストーブの遠赤外線については、太陽の光を思い出してみてください。冬の寒い時期、日陰は凍えそうでも、太陽の光にあたると、ほかほかと身体があたたくなります。薪ストーブも近くにいると、まだ室内が寒くても、身体に熱がからみつき、しっとりするほど暖まります。そして二次的に暖まった空気は対流し(足下から上昇する風になります)室内を暖めます。
わたしの家では、薪ストーブは髪も肌もしっとりすると女性陣に人気です。また個人的には力仕事で痛めた膝などを薪ストーブで暖めると赤外線治療のように効果をみせてくれています。
次回は薪ストーブの構造について、排煙を少なくする代表的な燃焼システムと製品をご紹介します。
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