一歩も家から出られない暮らしを強いられたら……考えただけでもゾッとしますね。でも、そんな暮らしが1300年近く前、実際にヨーロッパであったのです。
ここは、スペインが誇る数々の世界遺産の一つ、アルハンブラ宮殿。
ハーレムがあって、容易には外に出ることが許されなかった場所でもありました。また、城外に出られなかったからこそ生まれた、天国のような楽園でもあったのです。
盛大かつ繊細で、こんなにも楽しく暮らすことに重点を置いた住まいは、ほかにないんじゃないでしょうか。
あまりの豪華さゆえに、それらを現代の住まいに取り入れるのは大変なのですが、昔の人の「住まい」の楽しみ方には興味のあるところです。
アルハンブラ宮殿は、スペインにあってもスペイン人の手によるものではないことをご存知ですか?
その昔、スペイン南部(グラナダ)を侵略していたアラブ人が作り上げた場所なんです。それは、水と緑を家の内外にふんだんに使った住まいでした。優雅な時間を約束する空間、まさに想像を絶する豊かな生活の調べです。
アルハンブラは都を見下ろす丘の上にあり、当時は市場、モスク、住宅街が整備されていて、貴族の宮殿は7つありました。着工から完成まで、なんと21人の歴代王が手を加えて建設したのです。スペイン−イスラム文化の芸術の結晶と言われ、「王は魔法を使って宮殿を完成させた」とまで言い伝えられる美しさでした。
今でこそ、このきらびやかな古城は観光の場と化していて、生活家具などは置かれていませんが、不思議なことに優雅な暮らしを匂わせるアルハンブラマジックは、衰えることなく見る人を魅了させ続けています。外界を忘れさせてしまうほどのその室内の魅力は、私には「家具を置くことを前提としてデザインされていない」ように感じました。
こんな風に感じたのは、まず壁! どこを見ても柄、柄、柄なんです!
天井も床も繊細で、白いレースのような彫刻、イスラム特有のアラベスクタイルで埋め尽くされています。置かれている家具は、まるで部屋の引き立て役といった感じでした。
ドアがなく、住まい全体が開放感に溢れていますが、仕事場、寝室、ハーレム、浴室と多彩なテクニックによって用途別の工夫が施されています。特にすばらしいのがハーレム。仕事場の目の前に位置するのに、窓がなくどこか堅苦しい装飾とは一転、レースのような窓が作り出す光と影の芸術で輝き満ちている空間です。グラナダの白い街を借景として室内に取り込む窓辺で、町や民を想い、愛の歌でも詠んでいたのでしょうか。
仕切りで女達のプライベートルームが区切られていて、窓もふんだんに施され、どこの部屋からも緑と水の庭園が見渡せる、そんな造り。息を呑む、女性らしい部屋です。
一年中この部屋にいることを強いられた女性達が、鳥のさえずりや噴水のリズム、外からの光を全身で楽しんでいたのが目に浮かぶようです。
時代時代で住まいの考え方、作り方は変わっていきますが、自分の暮らす場所、家族の暮らす場所を楽しめる空間にしたいという願望は、いつの時代も変わらないものですね。
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ページ公開日:2007年6月7日 |
インテリアショップでカラーコーディネーターを兼任しながら勤めた後、中米コスタリカにスペイン語留学。この地で韓国人の旦那さまと出会い、翌年韓国で結婚。
現在、スペイン・バルセロナで生活中。2003年AFT1級取得。
趣味は、インテリア小物・アクセサリー作り、和太鼓、サルサやメレンゲ等のラテンダンスなど。