お父さんの気持ちを聞いてみたい! そんな好奇心から生まれた「お父さんのナイショ話」は、一般公募で選ばれたお父さんたちによる子育てリレーエッセイです。
「初体験」で3度、喉から心臓が飛び出るほどに緊張したことがある。1度目はラグビーの試合に初めて出場したとき。2度目は「けんかみこし」に初めて担ぎ手として参加したとき。そして3度目は先日、小学校3年生の長女と一緒に地区運動会のリレーに参加したときである。
足には自信があるので、7年前にこの地区に引っ越してきてから、毎年リレーに出場させてもらっている。今年も気楽に走ろうと思っていたら、地域の世話役から「娘さんも小学校低学年(1〜3年生)の部に参加してや」とお願いされた。
残念ながら彼女は足が速い方ではない。学校のリレー選手にもまだ選ばれたことがない。断ろうと思ったが、その話を聞いた本人はやる気マンマンだ。記念になれば、という気持ちで引き受けることにした。それから運動会まで猛特訓、といきたいところだが、のんびり屋の彼女は特に練習をする素振りもない。そのまま時間が経ち、結局前日にバトンを渡す練習をしただけだった。
そして迎えた運動会当日。僕は町内の役員をしているので朝から準備に大わらわ。あれよあれよという間に競技は進み、「地区対抗年代別リレー」の順番が近づいてきた。あと2つ、というころになり突然、緊張感が襲ってきた。
「バトンを落としたらどうしよう」「コーナーでこけたらどうしよう」
長女への悲観的な思いばかりが頭をよぎる。入場口に並んでいる娘も緊張して顔が真っ青だ。そっと近づき「こけてもかまんけん、バトンを渡す子だけは間違えられんよ」と声を掛けた。僕の緊張感も伝わったのだろう、「コクッ」とだけうなずいてみせた。
小学校低学年女子の部は第1走者だ。会場中が彼女を見つめている。僕らがでる1組は3チームが出場。トラックの中から娘に声援を送る。「頑張れー!」吐きそうなほどの緊張感の中、声がうわずっていた……。
「ヨーイ!」パン!!
号砲が鳴り響き、競技が始まった。出だしは悪かったけど2位につけている。「こけるな、こけるな」泣きそうな思いで走る姿を見つめる。コーナーを無事に周った。最後はバトンパスだ。次の男の子も手を出している。いいぞ焦るな。ヨシ!無事に渡せた!!よく頑張った!!!
次は僕が頑張る番だ。僕は第10走者。チームはそれまでの間、2位になったり3位になったりしていたが、僕がバトンを受けるころは1位の走者と4分の1周強ほど差が開いた2位。娘が頑張った以上、僕も100%以上の力を出さなければならない。バトンを受け取りスピードをおさえながらコーナーを周り、バックストレートへ。
少し上半身が浮いたけど、無理におさえ込みながら全力でトラックを駆け抜けた。
最終コーナーで前の走者をとらえ、1位でバトンを渡した。
トラックに入り、早速長女のところへ近寄って行った。彼女も寄ってきてギュッと抱き合った。「ふたりとも頑張ったね」そんな思いが伝わってきた。
本当に嬉しかったのだろう。運動会が終わった後も、彼女はことあるごとにリレーの話をしている。僕も折に触れて、あのレースのことを思い出す。長女との初めてのリレー。あの緊張と喜びはきっと、ずっと忘れることはないだろう。
一生の思い出となる2007年の運動会だった。
◆前回の執筆者からの質問
「お金の教育を何歳くらいから始めましたか? あるいは始めたいと思いますか?」への回答◆
うーん難しい問題ですよね。まず今は「お金がどんなに大事か。一生懸命働いて初めてお金がもらえる」と理解させています。本格的には小学校高学年からかな、と思います。
お子さんと一緒に楽しんでいることは何ですか?
Dupty Manager
36歳、会社員。愛媛県松山市在住。共働きの妻(40歳)、長女(小学校3年生)、次女(幼稚園年長)、長男(幼稚園年少)、2世帯住宅で妻の父(76歳)・母(74歳)と同居。趣味はスポーツ(ランニング、ソフトバレー、ラグビー、ソフトボールなど)と読書(小説以外)。