お父さんの気持ちを聞いてみたい! そんな好奇心から生まれた「お父さんのナイショ話」は、一般公募で選ばれたお父さんたちによる子育てリレーエッセイです。
「フリーターになってもらっても……ねえ」
妻が眉根にしわを寄せ、ほおづえをついて、小さな声でため息混じりにつぶやいた。
先週次男坊の学校で三者面談があった。高三になって最初の話し合いで、卒業後の進路について最終確認したいとのことだった。
わが家では息子の気持ちもずいぶん前から固まっていたし、家族も好きな道に進ませてやるのが一番と考えていたので、報告会程度の気持ちで妻は出かけていった。
夕方、帰宅すると同時に相談を持ちかけられた。
先生からは、息子の第一志望である動物関係の専門学校は就職率が非常に悪い上に、運良く仕事に付けた子供たちも待遇面の不満などで早期に退職するケースが多い。もう一度考え直された方がよいのではと言われたとのこと。
常に楽観的に考えてきた両親と子供が改めて顔をつきあわせることになってしまった。
わが家は家庭を持って以来、常に行き当たりばったり、出たとこ勝負のスタイルで暮らしてきた。
将来をいろいろ難しく考え、緻密な計画を立てて頭を悩ませるより、今日をしっかり生きていこうというスタイルを選択した。
それでも何とかなるもので、30年間豊かではないが笑い声が絶えない明るい家庭を築いてきたし、とんでもない難題に追いつめられても、お互いに援助し合っている友人や知人が常に相談に乗ってくれた。
息子は幼いころからあらゆる生き物が好きな子だった。
5歳のころ、雨の日に道の端に転がって固くなっていた雀を拾ってきて、ドライヤーの暖かい風を当てながら「もうすぐ元気になるよ」と何度も言っていた光景は今でも忘れられない。
そんな優しさはいまに至るまで変わらず、小さな虫、とかげ、かえる、亀、ペンギンから馬に至るまであらゆる生き物を見ているとき、触れているときの眼は、机の前に座って教科書を開いている横顔とはまるで別人で、本当に楽しそうに見える。
生き物と関わりのある仕事につきたいというのは自然の流れだったし、両親とも両手をあげて賛成した。
就職条件は厳しいかもしれない。
その先もハードルはたくさんあるだろう。
だけど、どうせ明日どうなるかは誰にもわからない。やっぱり今を一所懸命生きようや。
お金持ちにならなくても、出世しなくても良い。一番好きなことをやった方がいいに決まっている。
悩まずにわが家の家訓【なんとかなる】精神で進んで行こう。
なあ坊主、なあ母さん。
◆前回の執筆者からの質問
「理想の父親像は? また、父親としての自分に点数をつけるなら、理想に対して何点?」への回答◆
私の中での理想の父親の姿はやはり「どっしり落ち着いて、いざというときに的確な指示を出せる。さらに身を挺して家族を守れる」。姿形ではなく、男としての頼りがいがあることでしょうか。
具体的にいえば家族が水におちたとき、考える前に即飛び込んで助けられるというようなことです(もちろん泳げなくても)。35歳までは50点、現在は70点はもらえると思っていますが、家族の採点は皆目不明です。
子供を授かって本当に良かったなあと感じる(または感じた)瞬間はどんな時ですか。
ウミホタルおとんさん
58歳、会社員。千葉県木更津市在住。家族構成は、かなり天然な妻(56歳)、IT技術系会社員の長男(28歳)、のんびり屋の次男(17歳)。
「1年前からイタリア語会話の練習を始めました。イタリア北部の世界遺産チンクエテッレ(海辺の古い街)に行くのが夢です」。