お父さんのナイショ話〜ひそかな親ごころ〜

お父さんの気持ちを聞いてみたい! そんな好奇心から生まれた「お父さんのナイショ話」は、一般公募で選ばれたお父さんたちによる子育てリレーエッセイです。

vol.10 いつもの散歩

娘が三歳くらいの頃からか、僕と娘はよく駅までの散歩をするようになった。
道のりは片道1.5km、小さな子どもには結構な距離かもしれない。
全体的には住宅街の中を歩くのだが、うち行程の半分は緑樹帯となっていて気候の良い季節などは誠に気持ちが良い。
途中には、小さいながらもひと通り遊具が揃った公園もある。駅前には中規模のショッピングセンターがあって、食品売り場で夕食の材料を仕入れることも楽しみなのだ。

連れ出した理由はいくつかある。
有り余る子どもの体力と好奇心を散歩で消化させ、同時に基礎体力を養おうと考えた。
それから、子育てに日々忙しい妻の息抜きにもいい。
加えて、諸般の事情で、お金のかかる遠くのレジャーにあまり連れて行ってやれないということもあった。
幼稚園くらいにもなると、近所の友だちはディズニーやらUSJやらと遠出するのだが、僕はせいぜい散歩くらいしか連れて行ってやれない。申し訳ないな――と思いながら歩くこともしばしばだった。

初めの頃、やはり帰り道は随分とぐずった。足が疲れるのだろう、持続して歩くということがまだ難しい。
「もう歩くのイヤッ!」という言葉を何度も聞かされた。
その度に背中を押すのだが、結局最後は背負うハメになる。けれど、散歩そのものは楽しいようで、「いつもの散歩に行こうか?」と聞くと、以降も大抵は首を縦に振った。
暑い日には帽子をかぶり、寒い日には手袋をはめ、わざわざ雨の日に出かけたこともあった。そのうち、娘は娘なりに散歩の楽しみを見つけたらしく、道をそれる所、立ち止まって遊ぶ所、走る所などを自分で決めていった。
代わり映えのない散歩でもそれなりに楽しんでくれているんだな、とうれしく思った。

ある春の日には、道端の草地にたくさん咲いている白や黄色の花を見つけて、
「これ、ママにプレゼントする!」
と言っておもむろに摘み始めた。
その摘んだ花を小さな手でしっかり握り締めたはいいが、家に着くまでの僅かな間にみるみるうちに萎(しお)れてしまった。
「そんなにきつく持ったらアカンよ、もっとやさしく持ったらんと」
僕に言われた娘は、自分が何か悪いことをしてしまったかのような、なんとも言えない残念そうな顔をしていたのだった。

そんな女の子も小学三年生になった。
以前ほど回数は多くはないけれど、今でも時々一緒に歩く。
いつのまにか走れば僕より早くなっているし、一挙手一投足を注意して見ている必要もなくなった。手を繋いで歩くこともすっかりなくなって、どんどん大きくなって行くんだなぁーなどと思いながら、娘の走る姿を後ろの方から眺めている。

この前は、またいつもの場所で娘が立ち止まり、そうして慣れた手つきで花を摘み始めた。
「ママに持って帰ってあげるの」
「そうか、そりゃ喜ぶな」
花を握った手はやさしく、とても上手な持ち方をしているようだった。


◆前回の執筆者からの質問
「子供にやらせてみたいと思っていることは?」への回答◆

走るのがそこそこ速いので、陸上競技をやらせてもおもしろいかなぁと思っています。

 

次回の執筆者への質問

子供と一緒に行ってみたい海外の国はどこですか?

プロフィール

しげぞうさん
37歳、会社員。奈良県在住。妻(38歳)と長女(8歳)との3人家族。元山岳部で山好き。最近、家族を巻き込んで日帰り登山を始めたとか。「妻はダイエット、娘はおにぎりが食べられるとあって、案外評判がいい」。

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ページ公開日:2008年5月28日
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