お父さんの気持ちを聞いてみたい! そんな好奇心から生まれた「お父さんのナイショ話」は、一般公募で選ばれたお父さんたちによる子育てリレーエッセイです。
僕の子育ては娘が生まれたその瞬間から始まった。
正確には生まれる前から色々することはあった。なぜなら僕の娘は自宅で生まれたからだ。
「自宅出産」といってもウチの場合、特にそれに対して強いこだわりがあるわけではなく「病院は怖い。あそこでは産みたくない」というツレアイの一言でそうなった。とにかく、ウチで出産した。
季節は夏、それも8月末の沖縄の強烈な夏。時間は午後3時。一日のうちでもっとも暑い時間帯。
肌が敏感になっているのかツレアイは「エアコン消して! 扇風機もダメ!」と陣痛の合間にしぼり出すように僕たちに伝えてきた。結果、僕も2人の助産師さんも全員汗だく。
部屋の窓はすべてフルオープン、ついでに部屋のドア、おまけに玄関も開けた状態で、ツレアイは外にお尻を向けるような感じで陣痛を乗り越えていた。
「お湯沸かして! タオルありったけ持ってきて!」ってどっかで見たようにはならなかったけど、とにかく忙しかった。
助産師さんの指示の元、タオルを蒸したり、オイルを皿に取ったりした。すべての動作をすばやく、静かに、そして自分の気配を消している助産師さんを見習いながら。
三女出産間近の姉妹。助産師さんに説明を受け、真剣な顔で聞いています。
生まれる2時間前にはツレアイは、あぐらをかいた僕のおなかによつばいになってしがみついた。「髪の毛見えてるわよ」などと、手鏡を使って僕に状況を説明してくれる助産師さん。それを僕は、ツレアイに小声で伝える。
窓の外の鳥の鳴き声や、外が明るすぎるため起こる夏特有の室内の薄暗さや、たまに抜ける涼しい風などを、僕は幸せの中で感じていた。
「この時間がずっと続けばいいのに」と思ったころ、娘は「ひょっこり」といった感じで顔を出した。
顔だけ出してクルッと上を向いた。目が合った。笑ってる。(気がする)
次の陣痛でするっと出てきた。
こうして僕は出産に立ち会った。ツレアイから娘が出てくる瞬間も目の当たりにした。だけどそのとき僕にはそれを理解するだけの冷静さはなかった。
というのも、その晩、助産師さんが帰り、僕とツレアイ、そしてさっき出てきた赤ちゃんの三人になったとき僕は「この方は誰だ? いったいいつお帰りになるんだ?」とつぶやいていた。
その日からオムツを洗って干してたたんでと、そんなことを考えているヒマはなくなってしまったけれど。神様から期間限定でお預かりして育てさせてもらってるっていう感じは今も一緒だ。
6年経った今、娘は幼稚園児になった。彼女は自分が生まれた場所が大好きだ。「ここで生まれたんだよね」といつも聞いてくる。
娘が生まれたこの家が僕は大好きだ。でもここは借家。
借家ではなく、自分の家で出産を迎えたらもっとよかっただろうな、と考えるがいまさらしかたがない。せめて胎盤を埋めた大きな植木鉢と、そこに植えてある娘とともに成長しているスモモの木は持っていきたいな。って植木鉢は全部で3個あるんだけど。
◆前回の執筆者からの質問
「子供に言いたい『父親の自慢』は何ですか?」への回答
三人の娘たち
子どもに対してつらく当たりそうになったときの対処方法
沖縄県宜野湾市在住39歳
電話相談所で相談員として働きながら通信科の大学三年生もしてます。
僕とツレアイ(38歳)、長女(6歳)次女(3歳)三女(1歳)の5人家族です。
いつも4人の女性に囲まれ人生最大のモテ期を実感しています。
趣味は子どもと自転車に乗ったり海で遊ぶこと。