お父さんのナイショ話〜ひそかな親ごころ〜

お父さんの気持ちを聞いてみたい! そんな好奇心から生まれた「お父さんのナイショ話」は、一般公募で選ばれたお父さんたちによる子育てリレーエッセイです。

vol.20 せつない関係

私は毎朝、近くの公園までジョギングに出かける。そこでいろんな人が、声をかけてくる。その中でも、変わった女性がいる。私が、ベンチで休んでいると、手を振りながらやって来て、「私、この街好き。みんな良い人。」片言の日本語で話し出す。彼女は、中国から来た。娘が工場で働き、夜コンビニでアルバイトとしているとのことであった。私は、彼女に日本語を教えた。「この町の若者少ないねぃ。どこにいるの」ある時、私に訊ねた。「はいはい、仕事を探しに都会に出ていったよ、私の娘もそうだ。しばらくの間、会えなくなった。娘に会いに都会に行くから」彼女は突然、英語で話し出した。「どうしても行くの。いつ帰って来るの」その顔はあまりにも切実で、くるっと体を回し、思わずジーッと彼女の目を見てしまった。

娘とは、もう何年も会っていない。最後に会った時のことを、記憶を増幅して思い出していた。大学2年の時、娘は男を連れて帰ってきた。男は大学を出て、フリーターをしていて、時々、工事現場で生活費を稼いでいるという。どう見ても陰険で、冷たい感情を表さない男だった。私は娘にこみ上げてくる怒りに逆らわず、『あんな男、やめろ』と怒鳴っていた。そのことがあってから、娘との会話は少なくなった。子供の頃から、一人娘として大事に育ててきた。期待にこたえて、聡明で、素直で、勉強もよくできた。二年が過ぎた頃、母親に電話で男と別れたと言ってきた。娘は悪くない。絵のコンテストで金賞を受賞し、県の代表で交流使節としてアメリカにも行った。自慢の娘だったのに。繊細な娘が、どんなに傷つけられただろうと思うと、父親として何かしてやりたい。娘に会いに行こう。

「パパは、いつでもそう。自分が正しいと思っている。もう子離れしたら。自分の人生なのだから、自分で決めるわ」仕事から帰ってきた娘が、気の抜けた顔で言う。「お前は、そんな子でなかった」私は、娘がどれだけ哀しい思いをしているか、親が子を思う気持ちから、騙すことはできないと感じていた。彼女が子供の頃、家族で行ったハワイでの楽しい思い出が、ふっと頭に浮かんだ。あんなはしゃいだワイキキ・ビーチ、もうあの頃には戻らないだろう。父親の役目は、終わったと感じ始めていた。娘が親となった時、また私のせつない気持ちが、分かるであろう。『さようなら、娘よ』そう思った時、涙が流れた。


◆前回の執筆者からの質問
「お父さんの役目、お母さんの役目とは?」への回答◆

子供が成人するまでその子の才能を伸ばし、精神的にも肉体的にも健康な大人になるのを見届けること。

次回の執筆者への質問

子を思う親がせつなく感じた瞬間は?

プロフィール

せつないパパ
福井県在住。妻(58)夫(58)娘(22)アメリカ留学経験あり。
趣味:絵画、読書、ボランティアで外国人に日本語を教えています。
現在、大学で英会話を教えたり、翻訳,通訳をしています。また、市民大学の立
ち上げを行政と協働して、計画立案しています。グローバルな視点から見た、国際
環境問題を考え、グループに所属しています。市民の読書会に参加しています。

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ページ公開日:2008年10月22日
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