金沢の町家には赤い壁の座敷がある。以前、金沢出身の知人からこんな情報を耳にしました。土壁といえば緑や黄土色が身近だった私にとって、赤い壁とは、どんな意味があってのことなんだろうとひどく興味を惹かれたのです。謎を解き明かすべく、金沢へと旅に出ました。
赤い壁は料亭や旧家でも見られるそうです。今回は、確実に見学できるひがし茶屋街の「志摩」を訪ねました。ちなみにお茶屋とは、一言で言うと社会的地位のある人たちの集う夜の社交場です。芸妓が琴や三弦、舞などを披露したり、和歌や俳諧をお客とともに楽しみました。教養が必要とされる大人の社交の場であり、楽しみの場でした。お茶屋ののれんをくぐることは、旦那衆にとってステイタスだったのです。
期待に胸をふくらませて2階へと上がります。赤い壁は、想像していたよりも落ち着いた「赤」でした。光をやわらかく吸収するマットな赤、温かみのある色味です。赤=パッションのイメージとは少し違う印象です。艶っぽくて情緒があり、気分の高揚をじわじわと感じます。黒光りする漆塗りの柱や梁、欄間の繊細な意匠、七宝焼きの襖の引き手、手の込んだ細工と相まって粋で洗練された場を作り出しています。ここで遊芸を鑑賞し、お酌をしてもらった旦那衆は、どんな心地だったのでしょうか。
そもそも赤い壁は、加賀藩主・前田家の殿様が鮮やかな色を好んだからと伝えられています。また、雪深い金沢では、冬の寒さを視覚的に和らげるのにも赤い壁は適していました。武家屋敷から料亭、町家へとやがて広まっていきました。正式には「朱壁」といい、なるほど朱色に近い色合いです。赤の正体は、顔料のべんがらです。温かみとともに艶っぽさも感じさせる、趣の深い色です。
次に目指すは、山あいの一軒宿。源泉かけ流しの露天風呂の宿として、知る人ぞ知るお宿・曲水苑です。金沢の市街地から車で20分も走れば、ひなびた山里の景色が広がります。
湯の神様を祀る祠に手を合わせて、温泉棟へ。浴室に一歩入ると、冬枯れの景色が大パノラマで目前に広がり、眺めは抜群。露天風呂に体を沈めると、心身ともにじんわりとほどけていくよう。まろやかな暖かさのお湯は長時間入浴しても、湯疲れしません。無色透明のさらっとしたお湯は、源泉40度と若干低めで、アトピーにも効くそうです。お湯はしょっぱくて、地球の熱と天然の恵みを感じます。露天風呂と室内のお風呂とを行き来して、すっかりゆっくりくつろいでしまいました。そのうち北陸の冬のお天気の特徴である、鉛色の空から雨も落ちてきます。温まった体に冷たい風が心地よく、いつまでも湯浴みしていたい温泉でした。温泉には天然の鉱物が溶け込んでいますので、湯から上がるときはシャワーで洗い流さずに有効成分を肌にとどまらせてあげてくださいね。景色も楽しめる昼間の入浴がおすすめです。
|
|
粋の極み、お茶屋の内部。
冬こそうれしい露天風呂。ゆっくりほっこり温まります。
(左)宿の敷地に祀られる湯の神様。ここから曲水苑の源泉が湧き出ています。(右)銭湯の定番、ケロリン洗面器。温泉でも出会えたことにうれしくなりました。 |