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はじめての家づくり「候補の土地」を見つけたら…
土地選びから間取り検討までのお話です。
初めて訪れる「設計事務所」

水曜日の午後、D建築デザイン工房を訪れることになっていた建太郎と陽子。朝から落ち着かない様子でしたが、建築設計事務所を紹介してくれた智恵からの電話で少し冷静になれたようです。

D建築デザイン工房のモットー 建築家が設計する建物は、災害に強く耐久性に優れ、快適な暮らしが実現することはもちろん、美しく個性的で建て主が誇りに思うデザインでなければなりません。そのためには、建て主の思い、こだわり、価値観などを事前に知る必要があります。そこで、私はヒアリングにかなり重きを置いているのです。

D建築デザイン工房に行くんだって。代表の望月さんは、建て主の言うことをていねいに聞いてくれる人だから、遠慮しないでいろいろ相談するといいわ。引き出しもたくさん持っているし、おもしろい提案がもらえるんじゃないかな。

私たちの思いをどんどん言っても大丈夫なのね。まだ夫婦の間でもまとまっていないことがあって。

それをきちんと整理するのが家づくりのプロの仕事。思い残すことのないようにね。

というアドバイスをもらった大家夫妻は都内にある事務所へと向かいました。

予算のことで“駆け引き”は禁物

事務所は最寄りの駅から徒歩5分。階段を上った3階の一室にありました。

失礼します。3時にお約束をしていた大家ですが、望月先生はいらっしゃるでしょうか。

お待ちしていました、どうぞお入りください。大家さん、私のことは先生と呼ばないでくださいね。建て主は依頼者で、むしろ私たち建築家より立場は上です。でも、お互いによきパートナーでありたいので、両者対等ということで「さん」付けで呼び合うことにしましょう。

わかりました、望月さん。では、よろしくお願いします。

先日いただいたメールによると、「家族構成はご主人が35歳で百貨店にお勤め、奥さまは33歳で近所のスーパーのパート、娘さんが小学校2年生で息子さんが年中さん」ですね。

家づくりにはちょうどよいタイミングですよ。収入も安定し、お子さんが小学校に入学する時期で、ローンの返済にも無理がない年齢です。

ありがとうございます。社宅住まいも子どもが成長するにつれ手狭になり、リタイアした両親の将来の介護のことも気になったので、思い切って決意しました。

確か、ご両親も埼玉県K市にお住まいでしたね。今はご両親が元気で同居を望まれていなくても、やはり近くに住まわれた方がお互いに安心です。車もお持ちなので、買い物などの点も心配ないでしょう。

ありがとうございます。とはいえ、稼ぎが悪いものですから十分な資金がなくて。

土地の広さと形状については、間口8m×奥行き12.5mで面積は100平米。北側に道路があるということですね。第一種低層住居専用地域で、建ぺい率60%、容積率200%と用途地域に関する情報もいただいているので助かります。

用途地域のことは、住吉智恵さんから教えられていたので……。

それは心強いですね。ところで、住宅の予算は2,000万円とありましたが、この土地を生かした4人家族のお住まいとなると、3階建てなどプランによっては2,000万円では少し厳しいかもしれません。

2人とも「どきっ!」ですね。それも無理はありません。二人は、今回の総予算を4,500万円と考えており、土地に1,890万円を投じているので残額は2,610万円。しかし、陽子が少しさばを読んで2,000万円と切り出したからです。

2,000万円では厳しいというご指摘ですが、どれくらいあればよろしいのでしょうか。

大家さんは車をお持ちですから 、駐車スペースを確保しなければならないので、南側にある程度の庭のスペースを設けると、8mの間口ではおのずと東西の隣地との距離が近くなりプライバシー対策が必要です。

住吉さんから聞いているかもしれませんが、「外に閉じて、内に開く」という設計手法を使えば解決するのですが、多少コストがアップします。

北向きというハンディもコストに響くのですか?

これだけの広さがある土地ならば、ハンディにはなりません。そういうことを考えるのが、私たちの務めですから安心してください。

ただし、プライバシーの問題解決や十分な室内空間の確保には、200〜300万円上積みしたほうがよいと思いますが、むずかしいですか?

予算が2,000万円などと言ったことから、建築家に断られるのではないかと心配した建太郎と陽子でしたが、気を取り直してヒアリングに答えることにしました。

予算のことで“駆け引き”は禁物

4人家族でペットは飼っていらっしゃらないということで、リビング、ダイニング、キッチン、主寝室、子供室、洗面室、浴室、トイレは必須ですが、車庫はシャッター付きのインナーガレージか簡易の屋根付きカーポートか、書斎は必要でしょうか。

車はインナーガレージが理想ですが、カーポートで結構です。書斎はあるに越したことありませんが、高望みですよね。

キッチンはダイニングやリビングと同じ空間がいいです。でも、対面式にはこだわっていません。子供の世話をしながらというのも、あと7〜8年ですし。それから、子供部屋はこもりっきりにならないようにできるだけオープンにしたいのですが。

とはいえ、息子さんと娘さんですから年頃になると同じ部屋というわけにはいきません。例えば、最小限の寝室としての空間は独立させて、勉強部屋はホールに続く1つのオープン空間にするということは可能です。

そういうアイデアもあるんですね。

奥さまは平日パート勤務ということですが、洗濯物はバルコニーに干しても大丈夫ですか。

もちろんです。家族に花粉症はいませんし。

バルコニーも雨がかからないような工夫を施せば、安心して干せますよ。

万一のために、浴室に乾燥機を付けた方がいいですかね。

そのあたりの細かいことは、もう少し後の段階で決めましょう。次は主寝室ですが、ベッドと布団どちらを想定していますか。

今も布団なので、このままで結構です。その方が部屋を広く使えるし、衛生的な気がします。

まだお若いので、ベッドでなくても寝起きできますからね。では、吹き抜け空間はいかがですか。

あったら最高ですね。でも、それだけのゆとりが取れるかどうか。

吹き抜けは無理でも、開放感が感じられるような造りにすることはできますよ。

まずは最小限の希望でプランを考えていただき、予算にゆとりがあれば追加していくということはできますか。

あとからでもできることと、できないことがあります。そのあたりを見極めるためのヒアリングですので、素直な気持ちをぶつけてくださいね。

このあと、二人の趣味や好きな食べ物、生活パターン、子供の将来のことなど、しばらくの間ヒアリングが続きました。そして、最後に建築家から宿題が出ました。

収納については、ヒアリングシートをお渡ししますので、新居に持参する家具や持ち物を書き出して、メールで送っていただけますか。

こうしてあっという間に1時間が経過。徐々に打ち解けてきて、二人はそれぞれの思いを建築家に伝えることができたようです。

次回は、いよいよ建築家からのプランの提示。どんな提案が盛り込まれているのでしょうか、とても楽しみですね。

 

 

 

大家(おおか) 建太郎35歳、妻の陽子33歳、長女の陽菜7歳、長男の翔太5歳。

はじめに

夫は都内の百貨店に勤務し、妻は近所のスーパーでパート勤務、長女は地元の小学2年生、長男は幼稚園の年中さんという大家ファミリー。

現在は、千葉県N市の社宅で4人暮らし。長男が小学校に上がるまでに、マイホームを実現したいと願う夫妻は、妻の実家(埼玉県K市)近辺での土地探しから始めることにしました。

とはいえ、はじめての家づくりですから、わからないことが多く不安もいっぱい。ワクワク、ドキドキの船出です。さあ、このあと大家ファミリーはどのようなドラマを繰り広げるのでしょうか。

著者紹介:西村弘志 さん
住宅情報誌や建築専門誌などの取材・執筆のかたわら、「土地探し」のウェブサイトにノウハウを提供している住宅ライター。

今回の「候補の土地を見つけたら」では、首都圏で暮らす30歳代半ばの夫妻とその子どもたちによる4人家族が、家づくりする様子を少しコミカルに描いています。
建前はフィクションですが、不動産価格やその実態などは実在する町を想定したもので、ひょっとしたら心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

バックナンバーはこちら候補を探した2駅の全体地図

建築家からのアドバイス

建築設計事務所への初めての訪問。とてもドキドキしますよね。当社にも、皆さまとても緊張した面持ちでいらっしゃいます。お気軽に……とはいえ、確かに建築設計事務所は、看板も目立たない所が多く、もちろん初対面です。しかも、住宅展示場のように完成品などありません。どのように接してよいのかもわからない相手と、大金が必要なお話をするのですから、当然のことでしょう。

建て主が緊張していると、つい当たり障りのないことしか話してもらえないものですが、住宅を創るうえで建前だけの話では真の要望が汲み取れません。そこで一般的なこととして、自社紹介も兼ねて事例紹介やエピソードのお話をするとともに、当社では独自の『一日の暮らしシート』を用意しています。そこに生活スタイルを書いていただき、実際の住まい方のヒアリングを行いながら、緊張の向こうにある建て主の生活に沿った言外の思いを汲み取るように工夫しています。

このほか、土地については図面だけでなく写真があればより具体的にお話できますし、建物では来客の頻度、車の車種等も、案外プランに影響するものです。

あとは、美容室で好みのヘアースタイルを伝えるときのように、素敵だなと感じた建物やインテリアの写真があればお持ちいただくと、よりお話しやすいと思いますよ。
(建築家・岸 春美/春建築工房 設計室)

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2012年10月24日
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